ロシア建築ツアー
ロシアを訪れた観光客のほとんどは、モスクワであればクレムリンや赤の広場を中心にサドーヴォエ環状道路周辺の7つのスターリン様式高層建築によって大都市の概要を頭に刻み、サンクト・ペテルブルクであれば先ずはエルミタージュ美術館、そしてバロックとクラシック様式の調和のとれた街並み、そういった印象でほぼあの国が分かったような気になってしまいがちです。
新たな視点をもたらしてくれたのは、ある建築家ご夫婦の熱意でした。夫人は十数年前の私のツアーに参加して下さり、その後、百年前のロシア革命直後のアヴァンギャルド運動の中から生まれたロシア構成主義建築の中に見るべきものがあることを指摘して頂きました。パートナーである良人は、近代建築に大きな足跡を残したル・コルビュジエの日本人弟子の一人坂倉準三の建築事務所で働いたのち独立された方、示唆によりル・コルビュジエがロシア構成主義からの影響を受けていたこと、彼の設計した「ツェントロソユーズ(旧消費者協同組合)」がモスクワに彼の銅像と共に残っていること等を知ることとなりました。
2019年ロシア訪問での最大の思い出が、秋の裏街を散策し、巨大な丸い窓に圧倒される「ゴスプラン・ガレージ」、建物上部に3つの独特な立体が突出すという時代の情念がほとばしり出たような「ルサコーフ・クラブ」、そしてこれらを設計したメーリニコフ(1890-1974)の自邸の2本の円柱を重ね六角形の窓が星の如くに切り込まれたユニークな建築に至っては、これまで散々歩き回ったことのある歩行者天国アルバート街から少しばかり奥の道を入った先にあることを見付け出した驚きと喜び、従来の装飾性を排除しガラスとコンクリートの壁を合理的機能的に組合せることで新たな幾何学的な美しさが醸し出された、百年前の時代の鼓動を感じさせられるロシア構成主義建築の数々(サンクト・ペテルブルクのスターチェク広場周辺、モスクワのズーエフ・クラブ、ジル工場文化会館、カザン駅、鉄道員中央文化会館等々)を次から次へと見学する機会に恵まれたことでした。
世界で初めて双曲面構造建造物をつくり上げ、その後世界中に多大な影響を与えたシューホフ(1853-1939)による格子状双曲線を積上げた「シューホフ・タワー」は1920-22年に建設されました。335mのパリのエッフェル塔が鋼材7300トンであったことに対し、シューホフの計画は当初350mの高さに対して材料は2200トンと1/3以下で行うことが出来るという驚異的なものでした。当時ソ連の資材不足から、最終的には高さは148.5m、240トンの鋼材によって完成、後に1967年オスタンキノ・テレビ塔に機能が移管され92年の歳月を経た2014年には解体の危機にも直面しましたが、保存を訴える38名の反対の声が上がり、安藤忠雄や隈研吾もその声に加わったお陰もあり、現在の私たちもその歴史を刻んだ雄姿を見ることが出来るのです。
↑シューホフ・タワー
↑メリニコフ邸
↑フォーシーズンズホテル