ロシア市内交通事情
あなたは海外旅行に行って、現地の交通機関を利用しようと思うだろうか?路線バス、電車、地下鉄、様々あるが、外国人観光客が多い都市は別として、通常は地元の人々が利用するので、初めて利用する人にとってわかりにくい。日本でも簡単ではない。路線バスは、後払いか先払いか不明で、料金が一律でない場合も多い。行先表示もすべて漢字で、日本人でも読めない地名も多い。電車の切符を買う際も料金を確認するための掲示板も通常漢字表記で、たまに英語になっていても、kokkaigijidomaeといったように細かくて読み辛い。最近は海外旅行客も増えて改善されているが、都心だけで、まだまだ遅れている。
ロシアではどうだろうか? 最近は英語表記が増えているが、ロシア語表記だけのことが多い。モスクワの地下鉄に乗るには、窓口か券売機でカードを購入し、改札口の機械にタッチして、1回券であれば、購入したカードは捨てることになる。サンクトペテルブルグではコインを購入し改札口の機械に投入する方式で、機械に入れたコインは戻ってこない。両都市とも、どこまで乗っても料金は一律だ。
モスクワの路線バス、市電、トロリーバスに乗るには、地下鉄と同じカードをバス内に点在している読み取り機にタッチする。タッチすれば乗り降りは自由だが、私服検札官がたまに乗車していて、乗車後すぐにタッチしないで検察官に見つかると、罰金を払うことになる。これからタッチするところだった。というような言い訳は通用しない。次の駅で降ろされ、罰金を徴収される。カードはバス内では買えないので、地下鉄駅などで購入する。
サンクトペテルブルグの路線バスにも、同様の機械が車内にあり、定期券などはタッチできるが、1回券の場合は車掌から切符を購入することになる。車掌は通常座っているので、乗車後すぐに切符を求めて車掌席まで行けばよいが、混雑していると車掌席には近寄れないし、正直な乗客ばかりではないので、車掌は頻繁に車内を巡回している。つまりバスに乗車して切符を買おうとしても車掌が見当たらないことがあり、何駅もそのままでいると無賃乗車として検察官から声をかけられる可能性もあるので、気が気ではない。慣れた地元の人は、待っていれば車掌の方から見つけてくれるのでふんぞり返っている。車掌も歩合給なので、車内を動き回って、1回券らしき客に近寄り、切符を販売している。定期券を持つ学生や通勤客、パスを持つ高齢者や障害者は該当しないので、毎停留所から乗るそれ以外の人を常にチェックしている。1回利用の人は雰囲気でわかるようである。
ロシアの列車の駅はどうだろう。切符売り場はあるが、改札口はない。代わりに荷物のセキュリティチェックがある。日本の新幹線も、現状は空港のようなセキュリティチェックはないが、重大事件が起きればいずれ導入するのであろう。かつてはロシアの国内線に乗るためのセキュリティチェックがしっかりしていない空港が多かった。長距離列車であれば、車両ごとに車掌がプラットホーム上に立っていて、各車両ごとに改札する。車掌が見当たらなければ、車両に乗り込んでから切符を見せてもいい。郊外列車であれば、切符を持って乗り込むだけでいい。検札官が時々来るので、切符がないと罰金となる。
地下鉄の座席で寝ている人はいない。座っていて、高齢者や女性が目の前に現れたら、男性は必ず席を譲る。社会全体がそうなっているので、違和感がない。逆に譲らない方が異質なので、人から驚かれジロジロと見られたり、知らない人から注意を受けることもある。日本でタヌキ寝入りして席を譲らないのは、通勤時間が長いこともあるが、席を譲ることによって、人から注目をひくのを嫌がるからと聞いたことがある。更に日本の満員電車では、自分が降りる駅に着いたら、席を立ち無言で人をかきわけ、押しながら降車するがロシアだと事前にドアの近くに行って降りる準備する。満員電車だと目の前に立つ人に、次の駅で降りるか声をかける。降りないと言われれば、お互いの位置を交替し、徐々に降車扉の方へ近づいていき、降りる準備をする。地下鉄のプラットホーム上に安全確認のための駅員はいない。地下鉄はワンマンで、運転手がミラーを見たり、頃合いを見計らって扉を閉めるが、見通しの悪い駅では確認は困難だ。降りる時は予め扉の近くにいないと、降りれなくなることがあるから。と言う人もいるが、事前の立ち位置交替のための声掛けは習慣になっている。
話はそれるが、声掛けというと、市役所、銀行、病院などで、番号札がない。「次の方」と言われるだけで、名前を呼んでくれるわけではない。ならば列をつくって並んでいるかと思うとそうではない。待合室に雑然と椅子が並んでいて、バラバラに人が座っている。新しく来た人は、「最後の人はどなたですか」と待合室に向かって言わなければならない。順番の最後の人が「私です」と答えてくれるので、その人の顔、特徴を覚えておく。その人が呼ばれた後が自分の順番だからだ。また待合室全体に何人いるか数えておく。これで自分の順番が何人目か把握できる。そして忘れてはならないのは次の人が来て、順番が最後の人がだれか尋ねてくるので、必ず私です。と答えねばならない。トイレなど席を外す場合は、必ず自分の1つ後ろの人に一言いってから場を離れる。役所など順番が長い場合は、途中で買い物に行く人も出てくる。したがって待合室で待っている人以外にも列で待つ人がいるかもしれない。時々買い物に行った人が帰ってきて、混乱を起こすこともあるが、不思議と1人くらいは列の全体像を把握している人がいて、誰がどの人の後が教えてくれる。病院や銀行の職員は、いっさい列に関与しない。
地下鉄は約3分ごとに来る。長距離列車の時刻も非常に正確だ。しかしバスは道路状況によるので時刻表はあっても見る人はいない。中心地だと本数は多いが、それ以外は少なく長時間バス停で待つことも多い。すぐに来る保障はないので、皆歩き始める。冬場は待つのは寒いし、夏場は散歩が気持ちいいからだ。総じてロシア人はよく歩く。
マルシュルートカという巡回小型バスもある。目的地はバスに書いてあるが、ルートが複雑なので、初めてだとよくわからない。10-15人程乗車できて、運転手に直接現金を支払うが、ある程度人数が集まらないと出発しない。バスよりも速度が早く、小回りも効くので、使い慣れれば便利だと思う。
トランバイという市電も渋滞の影響を受けないし、頻繁に来るが、バス同様、行先に応じて車両に番号が書いてあるので行先を理解していないと、途中で曲がってしまったりするかもしれない。
タクシーは様々で、メーターを利用するもの、運転手と交渉して料金を決めるもの、アプリで依頼し、現金またはクレジットカードで支払うもの。など形態は様々ある。タクシー会社の車両もあれば、自家用車を利用している場合もある。タクシーアプリでは、エコノミー、スタンダード、ビジネスと3つクラスを指定できる会社もある。当然料金も変わってくる。安い会社は、運転手が稼ぐために多くのお客を載せる必要があり、総じてスピードを出し、運転が荒い。丁寧な運転手もいれば、汚い車もある。つまり同じ行先でも、頼み方によって1000円の場合もあれば、3000円の場合もあることになる。
旅行先では、地元の交通機関はよくわからないので、タクシーや貸し切りの車で移動する人が多いと思う。料金は高いが、迷う心配もないし、何より時間が節約できる。初日ロシアの空港に着いて、右も左もわからない状況の中、最初だけはホテルへ向かう貸切車を日本で予約していくのもいいだろう。滞在時間が短い人も、時間を有効に使うため、貸切車を利用する方が間違いない。しかし、のんびり旅行したい人、時間がある人、観光地に行くだけでなく現地の生活にも触れたい人は、地下鉄で移動してみてはどうだろう? 車だと中心地は渋滞するが、地下鉄は影響を受けない。
尚、ロシアには多くの都市があり、記述した内容と仕組みが違う都市もあることをお断りしておく。
↑地下鉄切符売り場
↑トランバイ
↑バス内で検札する車掌
↑トローリーバス
↑地下鉄プラットフォーム