ロシアは寒いのか?
ロシアに旅行に行く。というとあなたの家族は何と言うだろうか。あんな寒いところよく行くね。夏なら避暑地のようでいいけれど、冬に行くなどとんでもない。といったネガティブなことを言われるかもしれない。
実際はどうなのか、ここ数年、毎年2月にロシアを訪問してきたので、服装の注意を含めてお伝えしたい。
ナポレオンはモスクワを征服したが、ロシアの寒さによりパリへの帰り道多くの兵が寒さで死んだ。戦後シベリアに抑留された多くの日本人が寒さで死んだ。古代冷凍マンモスが発見された。南極以外で世界最高記録マイナス67度がオイミャコンという都市で記録された。
こういった寒さに関する情報には事欠かないので、寒い印象を持つのは納得できる。しかし実際はどうだろうか?
国土が広大なので北極に近い極寒の地もあれば、黒海に近い温暖な都市もある。そもそも極寒の地に都市は少なく、なるべく気候のよい地域に住むようになる。シベリアは広大だが、シベリア鉄道が走り、多くの都市があるのは中国、モンゴル、カザフスタンに近い南シベリアである。冬は寒いが、夏は気温30度を超える。針葉樹林の緑が果てしなく続く風光明媚な地域だ。
一般的に観光で行く都市は限られている。主に首都モスクワ、旧都サンクトペテルブルグ、極東のウラジオストクだろう。それぞれ気候は違うが、モスクワは大陸性気候だが冬でもマイナス5度程度、サンクトペテルブルグは北欧と同様、偏西風の影響で緯度が高いわりには温暖であり、ウラジオストクは札幌と同じ北緯43度だ。
どの都市でも部屋の中は暖かく、外で過ごす時間は短い。旅行で行った時の1日の流れを考えてみてほしい。暖かいホテルで過ごし、朝食を食べ、車で移動、博物館などを観光、レストランで食事、冬の公園は歩こうと思わない。劇場に行き、ホテルに戻る。圧倒的に室内で過ごす時間が長いことになる。仮に気温マイナス5度、室温25度とすると、1日の大半を25度の中で過ごすことになる。寒いと思い込み、厚手の下着にセーターを着て1日中25度の中を過ごした結果、汗だくになる観光客は多い。ロシア人は軽装で、上着だけはコートやダウンなどしっかりしたものを着ている人が多い。
スキーに行くようなスノーシューズを履いていく観光客も多い。雪解けの時期を除き、ロシアの雪は日本の湿気を含んだ雪と違い、吹けば飛ぶような粉雪であって高く積もらない。当然道は滑るが、砂や凍結防止剤を歩道に撒く。観光地ならなおさら整備されており、交通機関も雪に強い。くるぶしの隠れるブーツを履くのもよいが、スニーカーに厚手の靴下を履いただけでも十分過ごせる。
頭を冷やすと風邪をひくと言われており、ロシア人は帽子を被る。昔は毛皮の帽子を被る人が多かったが、最近は耳の隠れるニット帽が多い。時間は短くとも外を歩くので、手袋と帽子は必要だ。
日本では冬に乳母車の赤ん坊が帽子を被っていない。小学校の教室に暖房がない。裸足で柔剣道をやる。女子高生が冬でも短いスカートを穿いている。といった姿にロシア人は驚く。以前私は、「小さいうちから常に暖かい環境で育てると、寒さに対する体温の調節機能が弱くなり、健康に育たなくなる。」という日本の教育現場で聞いたことをロシア人に説明していたが、最近全く根拠がないことを日本の医学者から聞いた。女の子は下半身を冷やすのは非常に良くないそうだ。
ロシアの都市の大半の建物には熱湯が流れる管が張りめぐらされている。居間や台所だけでなくトイレや共用部の階段にも設置されている、いわゆるセントラルヒーティングによって建物全体、全ての部屋が暖められているため非常に快適だ。各地区ごとにボイラー施設があり、お湯の温度を決定している。しかし、大部分の家のヒーターには温度調節機能がないため、おおむね室内は暑い。従って、小窓を開けることになったり、Tシャツなどの軽装で過ごすことになる。夏はボイラー施設は稼働しない。寒くなってくると稼働し始めるのだが、9月、10月頃、急に気温が下がった時に、ボイラー施設が稼働していなくて寒い思いをすることがある。しかしホテルなどは自前のボイラーを持っているので安心できる。
日本の住宅は、夏の暑さ、湿気から身を守るため、開放的な木造住宅が中心だった。縁側から風を取り入れ、障子、襖、ぬり壁によって湿度を調節してきた。しかし裏を返すと冬はめっぽう寒い住宅になる。かつての東北地方では朝、布団に霜がおりていた。という話もあった。風呂場の室温が低く、老人がヒートショックで心臓麻痺を起こして亡くなる悲劇があるのも日本ならではの問題だ。最近は冬でも暖かいマンション、オフィスが増えているが、暖炉のある欧州やオンドルのある韓国に比べても、日本の住宅環境は冬寒い。居間はエアコンで快適でも、台所やトイレは非常に寒い環境で過ごす人は多い。つまり冬の室内環境はロシアのほうが圧倒的に良いので、ロシアから日本に帰国したら、寒いと感じる人は多いのである。夏にアフリカの赤道近いナイジェリアから帰国した人が、日本の方がずっと暑い。と言っていた。イメージだけでは理解できない。
結論は、冬にロシアの観光都市に行く場合は思ったより暑い。ということになる。調節ができるように、厚手でないシャツの上に、暖かい上着を着るのがいい。外を全く歩かないわけではないのでセーターも持っていく。
日本で例えると、スキー場や網走に行くのではなく、札幌に行く程度だと思う。夏は避暑地のように快適で、最近の日本の酷暑から逃れられる。ヨーロッパ同様、緯度が高いので、冬は日が短い。それゆえ室内で過ごせる劇場はベストシーズンとなり、充実したバレエ、オペラ、演劇、コンサーを楽しむことができる。博物館、美術館の行列はなく、ゆったりと楽しむことができる。ホテルや航空券も、冬の方がずっと安い。公園を散策したければ夏だが、それ以外なら冬の方がいい。
※モスクワ アエロエクスプレスの鉄道駅