モスクワ散策 –アクヴェドゥーク(水道橋)公園-
モスクワ市内を走るモノレールをご存知でしょうか。
2008年1月10日正式に運行を開始、高架であるにもかかわらず2015年からは地下鉄13号線としてメトロ路線図に組込まれました。近々再構築されるかもしれぬとの噂も出ていたことから、2019年の夏、全線4.7㎞ 東西6駅を18分で走るモノレールに乗車してきたのでした。植物生理学者チミリャーゼフの名を冠した国立農業大学、232ヘクタールもの広さを誇る森林公園、その最寄駅となる「チミリャーゼフスカヤ」から出発、モスクワ北西部から東進して、途中駅「テレツェントル」では、北側の池の畔りにシェレメーチェフ宮殿と農奴劇場、南に高さ540mのオスタンキノ・テレビ塔を眺めることが出来ます。
東端の「セルゲイ・エイゼンシュテイン通り」駅に到達する手前では、宇宙パビリオンで知られるVDNKH(ヴェー・デー・エヌ・ハー/全ロシア博覧センター)、コスモス・ホテル、鎚と鎌を持つ労働者とコルホーズ女性の像を目にすることになります。
この最終駅から駅名となっている通りを北西1km程進むと曲角にゴーリキー撮影所があり、そこから北に向かって東ドイツ初代大統領ウィルヘルム・ピークの名前の付いた通り名となって延びていてそこに「全ロシア映画大学」が建っています。無声映画時代モンタージュ理論を唱え「戦艦ポチョムキン」を制作した映画監督エイゼンシュテイン、映画大学で教鞭を執ったことからこの駅名、通り名にその名が記念として付けられたようです。
駅を降りて南北に走るプロスペクト・ミーラ(平和大通り)を渡った先に「アクヴェドゥーク(水道橋)公園」が広がっているのですが、何といっても古代ローマ時代の様な高さ15m、長さ356m 、21のアーチの水道橋が美しい景観を成していて、そのアーチの下を、老婆が散歩していたり、乳母車を押す女性たちが行き交うのどかな姿に見とれてしまいます。
かつてモスクワの住民が飲料水として利用していた井戸や池が充分とはいえず、汚染によって赤痢やコレラが深刻な問題となっていました。18世紀後半にはペストが流行、エカチェリーナ女帝によって、きれいな水が湧き出る16㎞北東のムィチーシチ(トレチャコフ美術館のペローフ「モスクワ近郊ムィチーシチでのお茶の時間」をご覧になった方もいらっしゃるでしょう)より、木とレンガによる地下給水管がモスクワまで敷かれる工事が行われたのでした。ヤウザ川の流れる谷は、給水管を渡す橋が必要となり、そこにロストーキンスキー・アクヴェドゥークが建設され、当時としてはロシア最大の石橋となったこともあり、ミリオーヌィ橋とも呼ばれたそうです。ニコライ・カラムジンによって「エカチェリーナの慈愛の記念碑」と呼ばれ、そして現在では憩いの公園のシンボルとして、観光名所ではない知られざる美しい光景を今に伝えているのです。