ベロゴーリエ
コロナ禍2年目ということで皆様がたいへんな思いをされていらした2021年の年末も押し迫ろうという12月、私はエンターテイメント性の強い4本のロシアの映画を観に行って参りました。
若い頃からの映画好きが高じて年間100回を越える映画館通いのリズムが半世紀以上も変わらず続いており、ロシアの映画であれば、昔ならば機会を逃したならばまず目にすることが出来なくなるのではと、小ホールから名画座、或いは大きな映画館で封切られたならば上映期間がどこまで続くか分からないからと情報を得次第いそいそと出掛けて行ったものでした。今でこそ、ロシアのインターネット・サイトではありとあらゆる映画をオンラインで観ることもできる時代になってきてはいますし、また、東京が文化発信の中心となり過ぎぬようにと地方都市各地にも展開されているシネコンあたりでも稀にではありますがロシア映画が上映されるようになってきていて様相はかなり変わりつつあることも注目です。
とはいえ、コロナ対策に十分な配慮がなされた施設ではあっても、都会と比べると地方の映画館への客足は淋しいものがあります。
師走の時期に観た映画は、まず「ユナイテッドシネマ幕張」というシネコンでワジム・シメリョフ監督「1941 モスクワ攻防戦80年目の真実(原題:ポードリスク士官候補生)」、そしてアンドレイ・ボガトィリョフ監督「ナチス・バスターズ(原題:赤い亡霊)」です。第二次世界大戦のそれぞれの悲惨な物語について戦争を知らない世代が真摯にしかし分かり易く見応えたっぷりに描いた作品でした。
さらに、時代の変化を感じ印象的だったのが「イオンシネマ市川妙典」で観たドミトリー・ディヤチェンコ監督「ベロゴリア戦記 第1章:異世界の王国と魔法の剣(原題:最後の勇者)」と「ベロゴリア戦記 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師(原題:最後の勇者:悪の根)」です。この2作で「ウォルト・ディズニー・カンパニーCIS」という会社がモスクワの中心街「ロッテ・プラザ」ビルに2006年に設立されていたことを私は初めて知り、映画の冒頭にシンデレラ城の映像、その前をバーバ・ヤガーが住む小屋、鳥の足がついたロシアのおとぎ話でなじみの小屋がぴょんぴょん飛び跳ねて横切って出てくる姿を目にして先ずは驚いたものです。
現代モスクワの青年イワンがひょんなことから、古代ロシアのベロゴーリエへと迷い込み、口承叙事詩ブィリーナで描かれた勇者イリヤ・ムーロメッツの息子であると告げられます。そしてアファナーシェフの民話集に出てくるような、不死身のコシチェイ老人、蛙に姿を変えられた賢女ワシリーサ、600歳の魔女バーバ・ヤガーと空飛ぶ碾臼、海のツァーリで水を操るヴォジャノーイたちとの関わりが面白く描かれていきます。第2章では、まんまるパンのコロボークまで登場して、エンターテイメントとしての楽しさは益々膨らみます。しかし、これまでにない型破りなロシア映画の日本での人気はいまひとつだったようで、第1章を観た時の館内は私ただ一人、第2章がかろうじて7人の観客でした。
イワンが異世界に迷い込むきっかけとなるのは最初ウォータースライダーを潜り抜けたことによるものであったのですが、ベロゴーリエで手にした魔法の剣をくるくると動かして渦巻きをつくるとその中に入ることでおとぎの世界と現代のモスクワとを行き来できるようになっていくのです。
第2章の最後、大地に根を生やした悪の権化とイワンが対峙する場面で、剣先に渦巻きをつくり悪の根共々、モスクワの街へ降り立ちます。戦っていた悪の権化は、大地に根を付けられず、ビルの地下を破れども地下5階まで駐車場が続いているというオチで、イワンに負けてしまう、そんな現代ロシアへの風刺で締めくくられる面白さがありました。